ヤマボウシ ミズキ科 ミズキ属 落葉高木
街路樹や住宅街のシンボルツリーなどでもお馴染みのヤマボウシ。4月下旬から5月頃にかけて葉に被せた帽子のように一面に咲く白い花や、風にそよぐやわらかな枝葉は清涼感たっぷり。きっと一度はどこかで見たことがあるのではないでしょうか?
自然な趣が感じられるシルエットはお庭の中でも特別な存在感があり、シンボルツリーとしても定番的な人気を誇ります。
どこにでもあるようですが、庭に植えてみると改めて、初夏の新緑の爽やかさや花の美しさはもちろんのこと、秋の真っ赤な実の可愛さや紅葉など、四季を通じて目を楽しませてくれるはず。ここまで愛される理由をぜひ、ご自宅のお庭でも探ってみませんか?
ヤマボウシというと、どのような樹形をイメージするでしょうか?スッと1本の幹が上に伸びて枝先にたっぷりとした緑が味わえる「単幹」、根元から何本かの幹が伸びた情緒溢れる「株立ち」、いずれもヤマボウシの良さを活かした樹形です。
ヤマボウシは葉が大きく、さらに重なり合って夏には涼しげな木陰を作ってくれます。まさに緑陰樹にぴったり。街路樹としても盛んに植樹されるのにも頷けますね。
もし、デッキやテラスなどで夏の日に寛ぎたいのであれば、単幹の木であれば大きな日陰が期待できます。また、そのシンボリックなシルエットが洋風の雰囲気づくりに一役買います。
左:幹が一本だけ伸びたシルエットが綺麗な単幹 右:根元から無数の幹が伸びて風情がある株立ち
一方、株立ちの場合は、その1本1本の幹がとても風情があり、自然な景観づくりが得意です。こちらは洋風はもちろん、和モダンや現代風のスタイリッシュなデザインの建物にもよく似合います。コンクリートなどとの相性も良く、無機質な外観に美しい緑のインパクトを与えてくれます!
シンボルツリーにするのであれば、ご自宅の雰囲気を遠くから眺めて、どちらの樹形がマッチしそうかシミュレーションしてみるのもいいでしょう。
ヤマボウシの4つの花びらは、よく見ると葉のようにも見えます。実はこれ、花弁ではなく、総苞片(そうほうへん)と呼ばれるもの。中央に無数に集合した花序(かじょ)を包み、その存在を受粉相手である鳥や虫などにアピールするために存在するといわれます。ヤマボウシの方は、この花びらに見える部分の先端が尖った「剣弁」が多いのが特徴です(先端が丸みのある品種もあります)。
一方、ハナミズキは、同じくミズキ科ミズキ属ですが、花びらに見える総苞片の先端に切れ目があります。こちらは4月下旬頃、葉よりも先に花が付き始める姿が印象的ですが、ヤマボウシの方は春先、葉が出て来てから花の準備が始まり、5月上旬に花が咲き始めます。つまり、ヤマボウシの方が少し初夏に近づいてから開花するので、ハナミズキ=春の花、ヤマボウシ=初夏の花、というイメージを持つ人も多いようです。
一見、そっくりなヤマボウシとハナミズキですが、花の形、花の付く時期、葉と花の付くタイミングなどを知ると、その違いがハッキリわかってきますね。
左:花びらに見える総苞片の先端が尖っているのがヤマボウシ 右:総苞片の先端に切れ込みがあるのがハナミズキ
ヤマボウシは自然な雰囲気が素敵だけど、葉っぱが落ちてしまうからシンボルツリーとしては寂しいのでは…?と思いがちですが、実は常緑種があることをご存知でしょうか?
葉に厚みが出てくるので少し雰囲気は違ってきますが、明るく鮮やかなグリーンの葉はまた違った美しさがあります。落葉樹はちょっと…と敬遠がちな方はぜひ検討してみて下さいね。
代表的な品種としては、葉が厚く濃い緑色の”ホンコンエイシス”が挙げられます。一般的な落葉の品種と比べ少し印象が変わりますが、冬場も葉を落としにくい特徴があります。
この選抜品種としてもっともポピュラーなのが、葉に光沢がある”月光”です。こちらはホンコンエイシスと比較しても花がたくさん付き、辺りを華やに演出してくれます。さらに印象深いのが、幹がまっすぐ上に伸びていく直幹性の樹形。枝もバランス良く四方に張るので、樹形が整いやすく、単幹でも株立ちでも自然に枝葉が美しく出揃います。弱点としては、寒さにあまり強くないため、冬に少し葉を落とす傾向があります。
さらに”月光”の中でも、花がほのかにピンクに色付く”レッドムーン”や、花や樹高が月光より、ひと回り小さな”メラノトリカ”(別名”ガビサンヤマボウシ”)などの品種も人気があります。ヤマボウシは好きだけど、できればコンパクトなものを…とお探しの方におすすめです。
葉色が濃くて厚みがある常緑系はちょっと苦手、という方には、葉が明るい黄緑色で細長いことが特徴的な”ヒマラヤヤマボウシ”もおすすめです。花は少し小さ目ですが、黄色がかって白よりやさしげな印象です。
カラーリーフがお庭のアクセントにもなる”リトルルビー”も、個性的でおすすめです。この品種は新芽が赤く色付き、初夏に向かい次第に緑に変わり、再び秋が深まるとワインレッドに色付くという、葉色の移り変わりがお洒落!さらに花も赤く染まって、ヤマボウシの中では珍しい、二重咲きになるので、葉と相まってとても華やかな雰囲気が楽しめます。
いずれも、常緑種は落葉種以上に日当たりを好みます。日中きちんと日の当たらない場所に植えると葉を変色させたり、花付きが悪くなりますので、植栽地には注意が必要です。
また、寒さに少し弱いため、冬になると葉を落とすことも。次から次へとハラハラと落葉すると「枯れるのかな?」と心配になりますが、それは寒さに耐えるため、葉を落としているだけです。住まいが関東周辺から以北の方は、「半常緑」だと思っておいた方が良いかもしれませんね。
また、根が浅く強い風や乾燥に弱いことも指摘されているので、水やりと支柱はしっかり行った方が良いでしょう。
・”ホンコンエイシス”:葉の色が深い緑で厚みがあり、冬も葉を落としにくい
・”月光”:葉に光沢があり、直幹性で樹形が整いやすい
・”レッドムーン”:花が淡いピンクに色付きやさしい雰囲気
・”メラノトリカ”:葉は少し濃い緑色で、花も樹高もコンパクト
・”ヒマラヤヤマボウシ”:黄緑色の葉は細長く、花は黄緑色に近い
・”リトルルビー”:花や葉が赤く染まって個性的
・サマーグラッシー:葉に艶があり、花付き実付きが良く耐寒性高め
・イエローページ:花が大きくほんのり黄色に色付く
常緑に色々と品種があることはおわかりになったかと思いますが、もちろん落葉種にも品種は色々と揃っています。ポピュラーな品種としては、丸みのある淡いピンク花の”サトミ”などは公園などでも見かけることがあります。
また、濃いピンク色の尖った花びらを咲かせる”紅富士(ベニフジ)”はサトミともよく比較される品種ですが、さらに可愛いらしさが溢れる品種です。大輪の花をたくさん咲かせる”ミルキーウェイ”や、白い斑入りの葉が美しい”ウルフアイ”などもカラーリーフとして人気があります。
品種にもよりますが、ヤマボウシの樹高は5~10m。一般的な落葉品種であれば、最初は2~3mでも、10年を過ぎた頃には2階の屋根に届くほどにまで生長しまいます。
高さがある木は迫力のあるシルエットで建物を引き立ててくれるのですが、ヤマボウシは葉の上に花が付くため、下からではその様子がよく見えなくなってしまいます。
もちろん高さがあると、剪定も手に負えなくなりますし、風通しが悪くなり病気を誘発してしまうことも。特にヤマボウシに多い病気は、葉に白い粉をまぶしたような「うどんこ病」や、黒い点が無数に葉に現れる「褐斑病(かっぱんびょう)」です。
こうした症状が現れる前に行っておきたいのが、太すぎる枝や長すぎる枝を間引いたり、切り戻す「透かし剪定」や不要な枝を根元から切り除く「枝抜き剪定」です。これらの剪定方法は採光や風通しのためにも、厳寒期や真夏を除けば通年行ってOK。枝抜き剪定や深い剪定は、花後、落葉期に入る11月頃から2月頃にかけてしっかり行っておきます。
また、根元から細い枝が垂直に伸びてくる「ひこばえ」という枝がありますが、これは樹勢を弱らせるため、見つけたら早めに取り除いておきましょう。
秋になるとヤマボウシの葉は真っ赤に紅葉します。そして忘れてならないのが赤く不思議な形の実。ブツブツとして、ちょっと怪しげな様子なので、食べられると思っていない方も多いのですが、実は生でも食べられます!
左:花が終わると付き始める赤い実はちょっと不思議な形 右:秋の紅葉は真っ赤に葉を染めて、季節感もたっぷり
実は花の終わった6~7月頃に付き始めますが、食べ頃は葉が真っ赤に染まって実がやわらかく熟して落ち始めた頃。生でも皮を向けば、そのまま頂けます。中には種があるので取り除いた方が口当たり良くなります。もちろん、皮をむいて砂糖と煮ればジャムにすることも。ドライにすれば、ビタミンやアントシアニン等の栄養価がより高まるとも言われています。疲労回復や目の疲労、整腸作用なども期待できるようですので、ヤマボウシを植えたら、ぜひ実も楽しみたいところです。
ちなみに、近縁のハナミズキの実は有毒。形は全く違いますが、食べると中毒を起こすこともあるので気を付けましょう!
こちらはハナミズキの実で有毒。口にしないよう気を付けましょう。
いかがでしたか?ヤマボウシの魅力は街路樹などでも知っているようで、品種や樹形などを選んで自分だけの木として植えれば、きっと愛着もグンと高まります。
樹形も美しく、四季を通じて楽しめるヤマボウシ、ぜひシンボルツリーなどとしてご自宅にも育ててみて下さいね。