ヒガンバナ科 スイセン属(Narcissus)
植えっぱなしで大丈夫!という言葉はとても魅力的なキャッチフレーズですね。
特に、今まで植物を植えたことがほとんど無い…という場合には、植物を選ぶ大きな手がかりにもなるでしょう。
庭や街の景色が寂しくなりがちな秋の終わり頃から咲き始める素敵な植物。スイセン(水仙)もその中のひとつです。一度植えておくと忘れていても、時期が来るとちゃんと咲いてくれる嬉しい存在です。それに、毎年球根がどんどん増えて花の数も増えていくというお得な植物でもあるんですね。
和風にも洋風にも、静かな印象にも華やかな印象にも、アレンジ次第で幅広く楽しめます。
手間がかからなくて丈夫なのに魅力たっぷりのスイセン(水仙)。きっとあなたも植えてみたくなるのではないでしょうか。
スイセン(水仙)は、日本のような高温多湿なうえに地域によって気温の差が激しい環境にもかかわらず、全国各地で毎年元気に花を咲かせてたくさんの人を喜ばせている植物です。例えば、日本海側の厳しい環境の海岸線でも12月になると数万本の群落が咲き誇っています。このことからも、植えっぱなしで大丈夫!といわれていることがよくわかりますよね。
ちょっとだけ要点をおさえておくと、寒い時期寂しくなりがちな庭を可憐な花が楽しませてくれることでしょう。
皆さん、ナルシスト…という言葉を知っていますよね。ナルシシスト…と表記される場合もあります。
スイセン(水仙)の学名=属名Narcissus(ナルキッスス属)と関係が深いといわれています。うつむき加減に咲く花姿が、ギリシャ神話に描かれている、水鏡に映った自分の姿に恋をした若者の物語を連想させます。
でもその一方、水仙という和名の漢字には、ギリシャ神話とは違う意味がこもっています。もともと中国から渡ってきたスイセンですが、中国名と同じ漢字のまま音読みの和名になったものです。水辺に育ち、清らかで長く生きる仙人のような…という意味なのだとか。
漂ってくる良い香りに、こころが落ち着く気がするのは昔の人も同じだったのかもしれませんね。
別名を雪中花とも呼ばれます。雪の中でも可憐な花を咲かせている、ということを表しているといわれています。
スイセン(水仙)は、スペイン・ポルトガル・地中海沿岸・北アフリカなど自生する原種は50種ほど、園芸品種で1万種を超えるといわれています。11月から5月ころまで早咲きのものから遅咲きのものまで順々に咲きます。それぞれ咲く時期や強さなどが違っているので、ご自分の好みやライフスタイルに合わせて選びましょう。
中国から渡ってきたニホンズイセン(日本水仙)が全国各地で群落を作っています。先ほどご紹介した日本海側の海岸線沿いの群落も、このニホンズイセン(日本水仙)で、かなり長いあいだ植えっぱなしで咲き続けるほど丈夫な種類です。スイセンの中で一番早く11月ころから咲き始めます。房咲きといわれるタイプで、一本の茎に3~12ほどたくさんの花をつけるので一輪挿しなどにも向いています。茶花としてお馴染み…と言う方も多いでしょう。咲く時期が年末年始にピッタリというのももちろんですが、蕾の数が多いので花の期間が長いという長所のおかげでお正月用の切り花として流通するのも、主にこの種類です。
キバナズイセン(黄花水仙)
花の中心部の副花冠がラッパのように突き出ているのでこの名前がつけられました。
花の形がこういうタイプのものの総称です。花被片(周りの花びら)と副花冠との色の組み合わせや色合いにバリエーションがたくさんあるので、どんなタイプを選ぶか迷ってしまいそうですね。
大きくて華やか、ゴージャスな印象のタイプです。白っぽいものから濃い黄色、ピンクがかったものなど全体の色合いもバリエーション豊かですが、色の組み合わせも大きな魅力です。
スイセン(水仙)はあまり場所を選ばなくてもよく咲きます。土も水はけが良ければ問題無いので、極端な粘土質の土壌でなければ大丈夫なものがほとんどです。園芸店やホームセンターで販売されている、草花用培養土や球根用培養土を使用すると気軽に始めることができますね。
急な斜面などでも次々と花を咲かせるほど丈夫なので、野趣あふれるロックガーデンにも最適ですよ。
高低差をつけた場所に植えて立体的な庭の演出にも活躍します。下から見上げるというのも楽しいですね。
10月から11月ころには植え付けましょう。遅くなると根張りが間に合わなくて花が咲きにくくなります。
球根の3倍くらいの深さの穴を掘って、球根1個分くらいの新しい土か先ほど掘ってほぐした土を入れ、球根と球根の間隔も球根の3倍くらいあけて置きます。その上に土を被せておくと良いでしょう。
球根と球根のあいだを広めにとっておくのは、数年植えっぱなしでも大丈夫なようにするためです。スイセン(水仙)は分球が盛んで、どんどん新しい球根が育つのですぐに窮屈になってきます。
12月に入ってしまうと球根を植え付ける時期が過ぎてしまって残念…と思ってしまうことも。でも大丈夫!園芸店やホームセンターには、芽を出させてから販売する芽出し球根の苗が続々と販売されてきます。
芽出し球根の苗は、こんな風にかなり浅植えになっているものが多いです。球根もぎゅうぎゅうに詰まって植えられているものがほとんどです。これを植え替えるときに無理矢理球根を分けると根を傷めてしまいます。このまま丸ごとポットから出して庭植えや大きめのプランターに植えると良いでしょう。
1つのポットに1,2球の球根が植わっている場合には、それぞれのポットの苗を崩さずにポットの間隔を10cmほど空けて植え付けましょう。
芽が出ているものは深く植えないように気をつけてくださいね。芽が土に隠れてしまうと腐って傷んでしまうので、土を被せるラインは苗と同じか球根が隠れるくらいにします。
たくさんの球根が植わっている場合にはコンパクトな状態なので、他の植物の隙間にちょこんと置いて楽しむ…というのもオススメの方法です。ビオラやオキザリスなどにスイセン(水仙)を加えてさらに明るい景色をつくることもできますね。咲き終わったスイセン(水仙)の鉢は、ただどけるだけなので手間いらずです。花が終わったら葉っぱが枯れるまで待って風通しの良いところで乾燥させておきます。10月ころに球根を分けて植え付けしましょう。
もともと球根に栄養を蓄えているスイセン(水仙)ですが、花を咲かせるのにエネルギーを使いますよね。ぷっくりとした球根を保つためと新しい球根を育てるためにも肥料をあげましょう。
植え付けるときは、肥料分の3大要素、チッ素・リン酸・カリのバランスの良い緩効性肥料(ゆっくりと長く効く肥料)を元肥として株の周りにパラパラとまいておきましょう。花が終わったら、咲いてくれてありがとう…という意味でもあるお礼肥。これはカリ分の多い肥料が良いとされています。
花が咲き終わると、葉っぱだけがボサボサの状態になるのでついつい全部切ってしまいたくなるのですが、葉っぱは切らずに残しておきましょう。光合成をして大切な栄養を球根にため込む時期です。茶色く枯れるまで待ちましょう。
植えっぱなしで大丈夫なのに?…と思った方も多いでしょう。でも、植えて4,5年くらいで球根が増えすぎて窮屈になってきます。ひとつひとつの球根に見えても、その中ではもう2つ3つに分球しているのが分かりますね。この分球しているものがそれぞれ育って球根が増えていくんですよね。
球根が窮屈な状態のままだと、花が咲きにくくなったり球根が育たなくなってきます。年数は目安だとして、葉っぱはたくさんなのに花が減ってきた…と感じたら植え替え時です。
特に八重咲きのように大きな花を咲かせるタイプのものは、小さい花のタイプに比べて、球根が大きめでデリケートなものも多いので気をつけてあげましょう。
6月ころに葉っぱが枯れて休眠に入るので、掘り上げて風通しの良い日陰で乾燥させます。乾燥すると、かたまっていた球根が1球づつポロポロと簡単に分かれます。10月から11月ころに植え付けましょう。
綺麗に咲いた花をリビングや台所に飾りたい方も多いですよね。花と一緒に良い香りも近くに置くと素敵な気分にしてくれます。
その切り花にしたときのスイセン(水仙)の切り口に注意してみてください。ストローのように空洞です。
この中に水が溜まると球根が腐る場合があります。雨が強く降ったりするとすぐに水が溜まってしまいます。
この空洞に水が溜まらないようにするために、一手間をかけておくと安心です。
茎が長めに残っている場合には折り曲げて葉っぱの隙間に挟んでおきましょう。
残った茎が短い場合は、数本の茎をまとめてプリンなどの空いたカップを被せておくと手軽に対処できますね。
スイセン(水仙)には、毒性成分としてリコリン、タゼチンなどのアルカロイドがあります。
切り口から出るトロリとした粘液に触れるとかぶれることがあるので注意が必要です。切り花などをメダカや金魚などの生き物がいる入れ物に挿さないようにしましょう。
毒性成分は、特に鱗茎といわれる部分に多く含まれるとされていますが、全体に注意しましょう。食べて深刻な中毒症状が出た事例がたくさん報告されています。
日本ではネギやニラ、ドイツではタマネギ、などと間違われやすいとされています。報告された事例によると、ニラ玉や鍋、スープなど、火を通して調理したケースがほとんどです。このことでも、野菜だと思い込んで使用したら違いに気づきにくいことがわかりますね。
花が咲いていないと確かに見た目はソックリなだけに注意が必要です。
イトズイセンも、ヒョロヒョロとした葉っぱが土から出たらエシャロットやチャイブ…と間違うかもしれません。
絶対に間違えないようにしましょう!
植えた時には、どこにスイセン(水仙)を植えたのかをきちんと把握できていても、6月頃に葉っぱも枯れて休眠に入ると、地上部に何も残らない状態になります。地上部の様子が変わってしまうと、次のシーズンまで何を植えた場所なのかはっきりしなくなりがちですよね。
間違いやすくて毒性のある植物は、野菜やハーブを植える家庭菜園やポタジェの近くには、植えないように注意しましょう。
スイセン(水仙)が休眠に入ると地上部にスペースができるので、他の植物用に鉢やプランターを置きたくなりますね。スイセン(水仙)が次のシーズンに入って目覚めるまでは、上に鉢やプランターを置いたままでも大丈夫です。でも、シーズンが始まってもうっかりそのままにしていると、鉢やプランターの下で、せっかく出てきた芽が伸びることができずに残念な状態です。
こういうことを防ぐためにも、鉢スタンドを使用しましょう。地面と鉢のあいだに空間をつくることで、球根の新芽がスムーズに成長できるメリットがあるのはもちろんですが、鉢に植えた植物の通気性も良くなって、どちらの植物にとっても嬉しい方法です。
これならスペースの有効利用もできるので、スイセン(水仙)のシーズンオフのあいだ、春から秋のシーズンの植物など、植えたい植物ももっと植えられるようになりますね。
いかがでしたか?パンジー・ビオラのような一年草や、チューリップなどの球根植物、クリスマスローズなどの宿根草、さまざまな植物とも相性の良いスイセン(水仙)に興味をもっていただけましたか?
冬に咲くさまざまな植物と一緒に咲く姿に元気をもらえるかもしれません。たくさんの種類の中から、お気に入りのひとつ、植えてみてはいかがでしょうか。