ミカン科 ミカン属 常緑低木
レモンの木といえば、イタリアなど地中海沿いの民家の庭に黄色い果実がたわわに実る様子などを思い浮かべる方も多いのではないでしょうか? レモンが庭のシンボルツリーなんて素敵ですよね。でも、まさか我が家の庭にレモンなんて…と思う方も多いようです。
関東周辺では、庭に植えられる柑橘系というとユズの木やキンカン等が一般的ですが、実は品種にもよってはレモンも庭植え可能です。耐寒性の低い品種であれば、鉢植えで楽しんで冬場は室内に取り込んで育てて行く、という方法もあります。
お菓子にしてもレモネードにしても美味しいレモンは大好きだけど、果樹なんて難しそう…とお思いの方は、ぜひ初心者向けの品種からスタートしてみませんか?
ひとことにレモンの木といっても、どのような品種が良いのか??何となく選んでしまって大丈夫か、ちゃんと実が成るのか不安になりますよね。
まず知っておきたいのが、レモンは1本で実が付くのか?というところ。
ブルーベリーやオリーブなどは受粉樹をもう一本庭に植えたりしますが、レモンは「自家結実性」があるので受粉樹が必要ありません。
「自家結実性」とは、一つの株に付く花の中に雄しべ雌しべが存在する両性花があり、一本だけで受粉する性質を言います。いくつか別の品種を植えて味の違いを楽しみたい!という場合は話は別ですが、スペースの余裕が無いのであれば1本だけで十分、レモンの実が楽しめるというわけです。
そしてもう一つ知っておきたいのが、レモンは四季咲き性(四季を通じて条件が整えばいつでも花を付ける性質)であるということ。
春に花を付けたのに、また別の季節に花が咲いたりすると「季節を間違えてしまったのかな?」と思いがちですが、気温や日照など、開花の条件が揃えば、春以外でも花を見ることができます。
但し、春以外の季節に開花した後の実は日照条件や気温などが十分得られず、上手く育たないことも。
やはり春の花から受粉した実は夏の日差しをよく浴びて養分をたくさん蓄え、甘味や酸味のバランスも良いものが収穫できます。
ではどのような品種が良いのか?これは酸味や甘味といった味覚的なお好みもありますが、育てやすさ、という点ではトゲの少なさや実の付きやすさを重視して選ぶと、剪定などの管理のしやすさが違ってきます。
また柑橘系の健やかな生育には切っても切れないのが、気温や日照などの生育条件。花付き実付きに大きく影響を及ぼしますので、ご自宅の環境と品種による耐寒性をよく調べた上で選びたいところです。
もう一点、注意しておきたいのが、樹勢です。樹勢とは幹や枝の伸びる勢いを指しますが、この勢いが強すぎる品種は、どうしても頻繁な剪定が必要になります。スペース上あまり広く場所を確保できないようであれば、樹形がコンパクトに収まる大人しい品種を選んでおくと手間がかかりません。
ここでは、関東周辺で初心者に育てやすい代表的な品種をご紹介します。
“リスボン”
花はもちろん葉からも良い香りが漂います。たっぷりの果汁は酸味もたっぷり、レモンの代名詞のような果肉です。初心者にも育てやすく耐寒性があり、冬場は-3℃前後ぐらいまでの地域であれば戸外で過ごせます。
実が付きやすいレモンとしても知られ、日本国内では最もポピュラーな品種です。ホームセンターや園芸店などでも目にする機会が多いかもしれません。
リスボン自体はトゲは多め、樹勢は強めですが、「トゲなしリスボン」というトゲが短く少な目な品種もありますので、初心者の方にはこちらがおすすめです! 関東周辺では庭植えも可能です。地植えにすると、幹も枝ぶりもしっかりしてきて、環境が合えば5~6m前後に成長することもありますので庭木として堂々とした雰囲気が味わえます。
“ユーレカ”
リスボンほど耐寒性は高くありませんが、鉢植えにして冬場は室内に取り込むようにすれば冬越しできます。トゲは少な目で樹勢も緩やかなため、とても育てやすく、カリフォルニアをはじめ、世界中で育てられているポピュラーな品種です。果実は爽やかな香りとたっぷりの果汁が楽しめます。
四季咲き性が高いことも特性ですので、春の花後に改めて秋口など花を鑑賞できることも。
果実は酸味が強いため、生食よりはレモネードやサーモンのソテー等の料理に添えたりと、レモンらしい酸っぱさを味わいたいならこの品種です。
“ビアフランカ”
シチリア原産の大実系レモン。リスボンとユーレカの中間的な特徴を持っており、トゲが少なく樹勢も大人しいため家庭でも育てやすい品種です。またトゲが葉を傷つける事で生じるカイヨウ病になりにくいという点も嬉しいところです。
果実は果汁が多く香りも爽やかなので、そのまま丸かじりしても!ただユーレカ同様、耐寒性がそれほど高くないため、暖地以外で育てる場合はプランター栽培にして霜の降りる季節は室内に取り込む必要があります。
“マイヤー”
レモンとオレンジとの自然交配種で、果実は黄色とオレンジの中間のような明るい色合いです。トゲも少なく、小さな苗の内からたくさん実を付けてくれるので、どんどん収穫できて果樹を育てている醍醐味が味わえます!
耐寒性はリスボンより高く、戸外でも冬越しできるので関東周辺であれば庭植えが可能です。
果実は表面がツルっとしていて、普通のレモンより丸みがあります。味はレモンならではの酸味やえぐみが少なく、オレンジのように甘酸っぱいので、そのまま生食するのもおすすめ。
はちみつ漬けやマーマレードにすれば、そのやさしい甘味が際立ちます。
小さなレモンを植え付けたけれど、まったく実が成らない、という事があります。実はレモンをはじめとした果樹の多くは1~2年苗では実は望めません。この時期は生長に向けた養分を生き渡らせたい時期。もし結実した場合でも早めに取り除かないと樹勢が衰えたり枯れてしまうこともあります。のんびりと成木になるのを待ってあげましょう。
逆に最初は驚くほど実を付けたのに、その後は花は付くものの結実しない、というお悩みもよくあります。せっかくレモンの木を植えたのですから、果実は毎年実って欲しいものですね。
そのためには、少しレモンの木自体の特性や結実させるコツを知って、上手にストレスなく育ててあげる必要があります。
レモンは先述した通り、自家結実性のある虫媒花です。そして一つの花に雄しべと雌しべが存在する両性花。普通の環境では一つの木になった花同士をミツバチや蝶などが自然に受粉してくれるのを待てばいいのですが、上手く花や実が付かない!という場合はご自宅の環境や木、花がこの条件をきちんと満たしていない場合も。
たとえば、花自体が何らかのストレスで、花の中に雄しべ雌しべが揃っていないことが稀にあります。レモンは1年を通して肥料が必要な木といえますが、栄養が偏ったり不足していると、こうした花になる事があります。
また、ミツバチ等の虫が飛来できない都心のマンションの高層階や、周囲に虫が集まる植物や樹木が見当たらない場所では受粉は上手くできません。
もしご自宅の環境が思い当たるようでしたら、人工授粉という手があります!人工授粉は園芸農家さんや専門家が行うもの、と多くの人が思いがちですが、その方法は意外とカンタン。
水彩画や書道などで使う筆の先で雌しべと雄しべを順番に軽くこするだけです。自分で受粉させた花が実になってくれるなんて感激もひとしおですね!
せっかく付いた花や実がなぜか手で触れただけ、風が吹いただけで落ちてしまうことがあります。また実はなるものの、小さな内にポロポロと落ちてしまって大きく生長しない、ということも。
これは先に述べた奇形花の要因と同じく、水分や栄養、日照不足などによって、木自体の体力が落ちてしまっている可能性があります。
レモンは肥料と水を常に必要とする果樹です。特に鉢植えの場合は限られた土からの水分だけが頼りですので、初夏から秋にかけての水切れには注意が必要です。また花、そして実を付けるためには肥料を切らず必要とします。年間を通して与える緩効性の肥料に加えて、花前後と結実の時期には即効性のある液肥などを与えるようにしましょう。
また、レモンを育てる上で必ず知っておきたいのが一つの花や実に対しての葉の数。レモンは1つの花に対して20~30枚の葉が必要になりますが、気候などの条件が良い年は、そのキャパシティを超えて何個もの花を付けてしまうこともあります。
「せっかく花がたくさん咲いたから、今年は実をたくさん収穫しよう!」
…とそのままにしてしまうと、結局、栄養が不足することで何個もの花が落下したり、結実したもののポロポロとまだ小さな内に大量の実が落ちてしまい、一つも収穫できなかった、という結果になってしまうこともあります。
木としては不必要な実を落とすことで大事な部分に栄養を行き渡らせようと自分自身をコントロールしている訳ですが、やはり育てる側としては実は収穫したいですね!
であれば、たくさん成り過ぎた実は摘果(実を取り除くこと)する必要があります。
丈夫そうな実を選んで、他の実は摘果し、肥料を切らさずに育てて行きましょう。
鉢植えで買ってきたレモンは段々と枝葉を伸ばして生長していきますが、そのままにしておくと「根詰まり」という状態になります。根詰まりとは、根っこが伸びて行き場を無くし、鉢の中でグルグルと巻いてしまったり、鉢底から出て来てしまう状態を指します。これを放置すると新しい枝や葉も出にくくなり、もちろん花付きも悪くなって生育不良に繋がります。
できればそうなる前に植え替えはしておきたいものです。
植え替えは真冬、真夏を避けた春か秋に行います。もちろん、地面に植えてあげるのがベストですが、品種的に冬場取り込む必要がある場合は、ひと回り大きな鉢に植え替えます。
ここで気を付けたいのが、ひと回り大きな鉢、という部分です!ひと回りとは例えば5号鉢であれば6号鉢を選ぶということです。1号は約3センチですので、6号鉢というと直径18センチということになります。
「せっかくだからもう少し大き目の鉢にして、しばらく植え替えしないで済むようにしよう」…と今よりずっと大型のものに植え替えてしまうと残念な結果になってしまうことも。
というのも、植物全般に言えますが、いきなり大きな鉢に植え替えると、どんどん根を充実させてしまい、肝心の花や実への栄養が行き着かなくなってしまうのです。
大きな鉢に植え替えてあげても実が付かない、という場合はその可能性が疑われます。となると、しばらくは果実はお預けになってしまうかもしれません。
植え替え時の一番の注意点としては根を崩さないこと。そして根に対して枝とのバランスが同じになるように、剪定してあげる必要があります。
樹木は根の広がりと同じ幅に枝葉を伸ばしますので、枝葉がそれ以上に広がっている場合はそれに合わせてカットしておきましょう。
こうすることで、根から吸い上げる水分量と枝葉からの蒸散のバランスが取れるようになるのです。
せっかくレモンを家庭で育てるのであれば、できれば無農薬で育てたいところ。とはいえ、枝からも花からも甘い香りが漂う柑橘系、やはり害虫は付きものです。なるべく薬剤を使わないようにしたいのであれば、早期発見、そして早めの対策が必要です!
例えば、レモンによく付く害虫といえば、新芽を吸汁するアブラムシ、枝葉に発生する白い体のイセリアカイガラムシ、そしてミカンやレモンの葉が大好きなアゲハの幼虫、いわゆるアオムシ。
それぞれ早めに気付くことで、薬剤で退治をしなくても防除することが可能です。
まず、アブラムシは春の新芽に集中するので、水やりの際などに葉の表裏をしっかり観察すれば見つけられます。これは見つけ次第、シャワーをジェット水流等にしてで勢いよく吹き飛ばすだけでも防除できます。
あまりに大量発生しているのであれば、牛乳を農薬代わりに使う手もあります!霧吹きに牛乳入れてアブラムシに直接吹き掛けることで、体の気孔を埋めて窒息死させるという方法です。
イセリアカイガラムシは体がふわふわして白い塊のように見えるのが特徴です。これは冬は冬眠し、春になると卵が孵化して幼虫となり、茎や枝を吸汁し、樹勢を衰えさせます。また、排泄物がエサとなり、葉を黒ずませて光合成を妨害する「すす病」を併発させることも。
これも見つけ次第、ブラシや割り箸の先などでやさしく袋の中に突いて落とすようにすれば、綺麗に枝から取り除けます。
体がとても柔らかく、雌の体には卵が詰まっているので、乱暴に取り除いたり、取ったカイガラムシをそのまま地面に落としたままにすると、その卵が周囲に飛び散ってしまうので、注意しましょう!
ちなみに、カイガラムシもアブラムシも排泄物がとっても甘く、アリが集まってきます。レモンの幹にアリが上っているのを見たら、どちらかを疑ってみましょう。
そして、忘れてならないのがアゲハ蝶の幼虫です。これも葉をたくさん食害してしまうので、産み付けられた卵の内に発見すれば、取り除くだけで済みます。
卵は夏前から直径0.3ミリ前後と小さいので見落としがちですが、黄色く丸い卵なので初夏は葉の表裏をよく観察しましょう。
といっても、アゲハ蝶は柑橘類は切っても切れない関係です。レモンを植えるのであれば、初夏には少なからず飛来することは想定しておきましょう。ただ、幼虫が積極的に葉を食べるようになって、サナギになるまでの期間はほんの2~3週間のこと。幼虫が2~3匹等なら葉を食べ尽くされる事はありません。羽化まで観察すればお子さんの夏休みの自由研究にもなりますよ!
レモンの果実が収穫できたら、お菓子にお料理に色々と楽しみたいですね。レモンは煮ても焼いても美味しいですし、もちろん、輪切りにしたレモンをハチミツ漬けにして炭酸水で割れば、自宅で気軽に爽快なレモネードを楽しめます!
いかがでしたか?ちょっと敷居が高そうにも感じるレモン栽培、実は庭木としても気軽に育てる楽しみ、収穫する楽しみを味わえる果樹だということがおわかり頂けたでしょうか?
難しそうかな?と思ったら、小さな鉢苗からチャレンジしてみて下さいね。