アオダモ コバノトネリコ(モクセイ科 トネリコ属 落葉中高木)
住まいやインテリア、ガーデン雑誌でもよく見かけるほっそりと風情のある枝ぶり、爽やかな小さな葉、美しい幹肌…名前は知らなくても、その雰囲気に憧れを持つ人は少なくありません。
「これをシンボルツリーに」と雑誌の切り抜きやネットの画像からリクエストされることも多いのも、このアオダモのほかなりません。
緑陰樹としても小さな葉がつくる木漏れ日は涼しげ。景観樹としてもやさしい雰囲気の緑とその風情のあるシルエットが建物を自然に引き立ててくれます。
4月下旬頃からは細い糸状の白い花を房のように咲かせ初夏の訪れを告げてくれますし、秋から冬にかけては葉が赤く染まって美しい紅葉がロマンチックに冬の訪れを知らせてくれます。
何より山の木らしいたたずまいは、和はもちろん、洋、和モダン、ログハウス…テイストを選ばずマッチしてくれるのです。
「シンボルツリーは何がいいかな?」と悩んだら、まず候補にしてみて欲しい木です。
日本では北海道から九州まで広く自生しており、人々の暮らしにも根付いてきたアオダモ。
その名前の由来となった枝や樹皮は水に浸すと淡い青に染まることから、染料としても使われていたとか。
また、その強くしなやかな性質を活かし、木製のバッドやバトミントン等のラケットに用いられて来たことでも知られています。
別名では「コバノトネリコ」とも呼ばれていますが、同じモクセイ科、トネリコ属の「シマトネリコ」ともちょっと似ていて、たまに間違えられることも。その大きな違いはシマトネリコが常緑だということ。
葉の雰囲気もシマトネリコが丸みを帯びた艶のある葉なのに対し、アオダモはノコギリのような形のギザギザの薄い葉が列状に並びます。
どちらもこの20年前後で一気に人気の高まった庭木ではありますが、常緑の定番がシマトネリコなら、アオダモは落葉樹の中では断トツでベスト3に入る木かもしれません。
また容姿に加え、名前まで似ているのが「アオハダ」の木。
これまたややこしいネーミングで、よく間違えられるのですが、こちらも同じような雑木といわれる山の木で、風情のある枝ぶりや葉のやわらかな雰囲気も似ています!
ただ幹や葉をきちんと同じ場所で見比べてみると、アオダモの方は幹が灰色と白の縞模様なのに対し、アオハダは幹がその名の通り青みがかっていて、葉は丸みを帯びているので見間違えることはありません。
あれこれ似たような木が多いので混乱しますが、やはりアオダモの良さはその情緒溢れる樹形でしょう。
洋風のコニファなどではどうしても平面的になりがちだった背景が、アオダモような自然な枝ぶりの山の木を取り入れることで、より変化に富んだ奥行き感のある景色を作り出せるようになったのですから。
幹の色や葉の形などで違いがわかるアオダモとアオハダ。
並べて植えるとナチュラルな玄関まわりに。
日本のあちこちに自生し、暑さ寒さにも病害虫にも強いとあって、アオダモは初心者に育てやすい木といえます。では植栽にあたって押さえておいた方がいいことは?
ポイントをきちんと押さえて植栽したいところですね。
まず覚えておきたいのは、アオダモの自生しているのは山間部だということ。他の雑木にも言えることですが、日本の山地は日陰が多く、さまざまな灌木類や植物も共存し合って冷涼な環境を作っています。
土はあまり選びませんが、山の土は水はけ・水持ちの良い黒土の割合が高く、栄養がない痩せ地や酸性度などはあまり向きません。
また、夏場に照りつける日光、特に西日は苦手!山では周囲の木々が日陰を提供し合っていますが、シンボルツリーに1本だけ日の遮ることもできないような場所に植えると葉が焼けてしまったり、紅葉する前に黒く変色して落ちてしまうことも。
できれば植栽地は夏場の直射日光を避けることのできる建物の陰になるような場所が良いでしょう。
とはいえ、まったく日が入らない暗い場所は適しません。
秋、紅葉を楽しみたいのであれば、日光が半日以上は射し込む半日陰などの場所を選びましょう。
アオダモは山では10mを超える樹高になりますが、庭木としては5m前後に納まります。その見た目はひょろひょろと頼りなさげ。それが風情があっていいのですが、強い風が吹くと折れそうで心配…と感じる人も。
でも大丈夫。独特の粘り強さはバッドにも使われてきたほどです。
強風にあおられても、しなることで耐えるのです。あのやさしい枝ぶりからはとても風に強そうには見えませんが、意外にも株それぞれがしっかりと粘ってくれます。
もちろん、植え付けてから根付くまでの数年間は支柱は外さずにおきたいもの。
支柱がないと樹高が高ければ高いほど、風にはあおられやすく根が浮いてしまいます。根が土になかなか活着できないと、木は根からの水分や養分を吸い上げることができず次第に弱ってしまいます。
それなのに暑さや強風が容赦なく襲ってくれば、やはり枯れてしまうような事態を招くことも。
支柱をきちんと行えば、しなやかに健やかに育ってくれることでしょう。
ただこの数年で多発している予想を遥かに上回るような台風には注意が必要です。沿岸部から吹き付ける南風には海の潮が混じることが多く、枝葉に付いた潮が原因で枯れてしまう木も。
アオダモは山に吹きつけるような風には強いのですが、潮風にはさほど強くありません。
激しい台風の後はホースの水をシャワーモードなどにして、葉や枝に付いた潮や埃を完全に落としてあげましょう。
アオダモが病害虫に強いと言っても全く無縁というわけではありません。
稀にテッポウムシ(カミキリムシの幼虫)が付くことがあります。テッポウムシは幹の中に卵を産み付けますが、それが幼虫になって幹を食い荒らすのです。その際、水分を運ぶ道管などを噛み切ってしまうため、最悪枯死してしまうことも。
なんだか樹勢が弱ってきたな…と思ったら、この被害を疑ってみてください。
見つける方法は意外と簡単。木の粉が根本に落ちていないか、幹に穴が空いていないか?チェックしてみます。小さな穴を見つけたら、その穴にノズルの付いたテッポウムシに対応した殺虫剤を注入して様子をみてあげましょう。
アオダモの新芽は3月中旬から下旬にかけて膨らみ始め、小さなギザギザの葉が開きます。
ところが、気温などの条件によってはなかなか葉が出てこない年も。
「枯れてるのかな?」と心配していると、5月頃にやっと葉を出すことがあります。
年によっては葉が出るタイミングが他の落葉樹より数週間遅れることがあるアオダモ。周囲の木はもう花を咲かせているような時期にも枝だけの状態ではさすがに不安になりますね。
そういう年の春の傾向をよく考えてみると、朝晩の冷え込む期間が長く、1日の平均気温がなかなか上がらない年だったりします。
ただでなくても、春はこの季節特有の気温の乱高下やいきなり雹(ひょう)や雪が降ったり、急に冷たい強風が吹き荒れたりと思わぬ事態が待ち受けている季節。
植物や樹木にとって日差しや暖かさを得られる一方で、厳しい気候の変化にも耐えなければなりません。
そうした年のよる微妙な気候変動を枝や根のセンサーが察知しているのかもしれませんね。
また、その前の季節、冬の厳寒期が短かい暖冬傾向の時などにも、新芽の動きが遅いことがあります。
しっかり寒さにあたり、春はしっかり暖かい時間が確保できる状態になってからようやく葉を開く、という…なんとも賢い木なのです。
これも日本全国の山地に自生できるアオダモに備わった能力といえるかもしれません!
それ以外にも、秋、葉が紅葉せずに落ちてしまう年があります。そういう事態が起きた年は前のシーズン、夏を思い起こしてみて下さい。
あまりに猛暑だった年は、枝葉からの蒸散と根からの水分の吸い上げのバランスが崩れ、木全体の体力を落としてしまうことがあります。その際、木は翌年のために大事な根や幹を生き残らせるため、紅葉を待たずに葉を落とすのです。
これもまた生きる知恵!いかに翌年も確実に葉を出して生きようとしているのかを知る機会になりますね。
植物や樹木の生育は人間にようにマニュアル通りには行かないもの。
アオダモはそれが如実に現れる野性味溢れる樹種といえるかもしれません。それがまた育てる醍醐味にもなりそうです!
アオダモをお庭に植え付けるのであれば、そんな葉や花の変化も楽しみながら育ててみたいものですね。