緑は日差しを調整したり風を穏やかにしたり、時には防火壁に近い役割を果たすことが出来ます。ここでは、樹木の持つ機能を植栽デザインに取り込む14通りの配植技法をご紹介します。
植栽で日差しを調整する
燭台で日差しをコントロールするには、カツラやコバノトネリコなどの落葉広葉樹を植栽しましょう。落葉広葉樹は夏に葉が茂り、日差しを遮るスクリーンとして機能します。一方、冬は葉を落とすことで日差しを透過させ、建物を温める効果があります。
こうした効果を効率的に得るには、樹木を建物からどの程度離して植えるかがポイントになります。建物と樹木の距離は、夏の日差しの角度と樹高から決めます。
日差しの角度は地域で異なります。あくまでも目安ですが、建物1階への日差しを防ぐには建物と幹との距離は、樹高の半分程度とればスクリーンとして機能します。これ以上近いと部屋が暗くなりすぎ、離れすぎると角度のある夏の日差しが部屋まで影を伸ばしてくれません。
穏やかな風を呼び込むお庭
樹木の選定や配置を工夫することで、建物に穏やかな風を呼びこむお庭を作ることが出来ます。風を比較的通しやすい、葉の付き方が密でない樹木を選ぶことで風を呼び込みやすくなります。
特にカエデ類やエゴノキ、ヒメシャラ、マユミなど、小さな葉の落葉広葉樹が向いています。逆にスダジイやヤブツバキなどの常緑広葉樹やスギやマツなどの針葉樹は、葉と葉の間隔が蜜で、風をあまり通さないためこうした目的での植栽には向きません。
しかし、落葉樹のみでお庭を構成すると、夏以外の季節では葉が少なくなるか全くなくなり、お庭が寂しい印象になります。そこで、落葉樹と合わせて常緑広葉樹でも比較的風を通しやすいシラカシやソヨゴ等を配植すると、常に緑があるお庭になります。
強風が吹くような場所でも落葉樹と常緑樹を組み合わせると、常緑樹が風を弱め、さらに落葉樹が穏やかな風の強さまで弱める。ただし、日当たりの良い側は葉付きが良くなり、特に常緑樹の場合風通しが悪くなります。そこで、剪定や葉透かしなどの管理をして風通しを確保しましょう。
また、樹木は風の通り道を塞がないよう間隔を空けて配植することがポイントです。そのためにも、敷地に対してどの方向から風が吹くかは気象データなどで事前に確認しておきましょう。風は季節によって吹く向きが変わり、春から夏に吹く風は比較的穏やかです。そこで、この季節の風を呼びこむように芳香を掴んでおくことが重要になります。
配植の工夫で強風を防ぐ
強い風は、住環境を改善するどころか悪化させてしまいます。特に高層の建物の脇やその間で起こるビル風などは、通行上の安全も阻害しかねません。
敷地内に幅3m程度の緑地帯が取れる場合、葉が多く密なマテバシイやアラカシ、マルバグミ、ハイネズなどの常緑樹で生け垣を作ると、建物に吹き付ける風を防ぐことが出来ます。
配植する際は、隣り合う樹木と枝が触れ合うよう、蜜に植えるとより効果的です。また、冬の寒い季節風などが吹きこむような場所は、シラカシやスギなどの特に風に強い常緑樹でカバーするといいでしょう。
植栽で遠景をお庭に取り込む
日本庭園の手法の1つに借景という技法があります。借景とは、周辺の緑や山の姿などをお庭の風景として取り込む手法です。後背地に魅力的な風景などがある場合、それをお庭の景色として取り入れることで、狭いお庭を見た目以上に広く感じさせることが出来ます。
借景では、お庭に植える樹木や石、灯籠などの添景物を小さなもので作るようにすることが重要です。樹木は、成長が遅く小さくても形がよくまとまる樹種、アカマツやイヌマキなどを選びましょう。遠景を活かすため、樹木の種類は庭のスペースにもよりますが3〜5種類程度に抑えましょう。
配植では、見たい景色ができるだけ多く取り込めるように樹木を並べる。その際、樹木の高さに変化をつけ、それぞれの樹冠の頂部を結ぶ線が直線ではなく弧を描くように植えるとより広がりを感じられます。近くに電柱や看板等がある場合は、常緑の高木を用いてしっかりと隠しましょう。
建物の部位を強調するテクニック
樹木を使って門や窓など手て者の一部を強調し、外に対して魅力的な空間を演出する技法は、昔から日本のお庭づくりで取り入れられてきました。例えば「門冠り」は、マツなどを門の近くに植えることで門を強調する手法です。
このように、強調したい部位の近くに適度なボリュームのある樹木を植えることで、見え方を強調することが出来ます。また、樹形を活かす方法もあります。たとえば、タケのようなシャープで細長い印象がある樹木を植えることで、建物の垂直方向に動きを感じさせることが可能です。
さらに、見せたい部分を強調するためにそれ以外の部分を植物で覆うフレーミングの技法も、建物の部位を強調するテクニックです。
ただし、建物を強調する樹木が建物のイメージを壊しては元も子もありません。外壁の色が濃い場合、エゴノキやナツツバキなどの明るい緑色の樹種を植えると良いでしょう。白っぽい壁やコンクリート擁壁であれば、ツバキやクスノキなど濃緑色の葉を持つ樹種を植えると建物の印象に対する干渉を抑えられます。
いずれの場合でも、強調したい建物や塀・門などに沿わせるように樹木を配置することが基本になります。そのため、樹木は建物から一定の距離をとって植える必要があります。
たとえば、中高木以上の樹木を植える場合、樹木が大きくなることを見越し、壁から三木までは2mくらい離して植えます。低木などあまり大きくならないものでも壁からは少なくとも30cm程度は離して植えて、樹木の成長を妨げないようにしましょう。
庇がある部分に植栽する場合、庇で雨がかからない分土壌が乾燥気味になっているので、庇の出から30cmとしましょう。また建物の近くに植栽する場合、建物に影響が出ないように剪定する機会が増えるため、ソメイヨシノのように剪定を嫌うものは避けましょう。
建物の印象を和らげる植栽
コンクリート擁壁のように、重厚な印象で圧迫感を感じさせる塀や建物は、樹木を1本添えるだけで空間の雰囲気を和らげることが出来ます。硬い印象の建物のお庭は、広葉樹を基本構成にすると良いでしょう。
マツやスギなどの針葉樹は、そのものがやや固い印象があるため建物が持つ硬質のイメージを強調しかねないからです。広葉樹でも、常緑樹は葉の色が濃いものが多いためそれだけでは重く固い印象になります。そのため、落葉樹を上手く組み合わせて配植するのがポイントになります。
配植は、建物の端部や直線部分が緑で隠れるように植えます。また、端部が全て隠れなくても目線の位置に緑があるようにするだけで、印象は大きく変わります。
様式が異なる部屋に合うお庭
現代の住空間では、1つの建物に和風と洋風の部屋があることは当たり前となっています。そこで、様式の異なる部屋から眺めても違和感のないお庭の作り方のコツをご紹介します。
こうしたお庭で最も一般的なものが、芝と雑木で作るお庭でしょう。建物に近い場所までみっちりと植栽を植えるのではなく、芝などで広い空間を作りその後背部を野趣のある樹木でまとめます。樹木自体が和・洋のいずれかのテイストを持つものは避けましょう。
雑木部分の下草には、和室に近い方はササ類を、洋室に近い方はクリスマスローズなどの宿根草を入れます。ヤツデやシュロチクなど、和風でも洋風でも合う樹木を使いエスニックテイストにお庭を仕上げると、和洋いずれの部屋から見ても違和感はありません。
樹木で敷地の境界を示す
自分の敷地と隣地・道路の間に門扉やフェンス、塀などの工作物を設ける代わりに樹木で境界を作る事例は昔からあります。これはオープン外構をデザインする際に取り入れられる手法で、光束物で縁取られたクローズド外構よりも開放的な空間を作り出すことが出来ます。
樹木で敷地に境界を作り出す場合、1年を通して緑が切れない樹種を選ぶことがポイントです。境界が曖昧になると、隣人や通行人との間でトラブルを引き起こしかねません。樹種は、カナメモチやアラカシなどの常緑樹が主体となります。
人が容易に侵入できないように、樹高は1.5〜2mくらいは欲しいです。また、小動物の侵入を防ぐために、足元はサツキツツジやクルメツツジ、フッキソウなどの常緑低木か、リュウノヒゲなど葉が密に付く草丈が20cm以上になる地被植物を植えます。低木は30cm間隔、地被植物は15cm間隔くらいに密に植えるといいでしょう。
境界の道路側を綺麗に見せるには、道路側から地被植物→低木→中木という構成で配色します。日照条件が良く敷地に余裕があれば、芝を道路側に植栽すると道路から緑地へと緩やかに連続した空間を演出することが出来ます。
樹木で作るスクリーン
樹木でスクリーン(目隠し)を作る場合、隠したい部分を確実に覆えるように、隣り合う樹木の枝先が5cmくらい重なるように植えます。樹木の足元が透けていると、いかにもそこだけ隠したような感じになるため、足元から隠したい場所まで緑に覆われているようにすることがポイントです。
敷地に余裕がある場合、地被植物、低木、中木、高木のすべてを使って緑のスクリーンを構成します。敷地に余裕がない場合は、主木を中木から1種類選んで列植し、隠したいところを覆います。
基本的に常緑で枝が密な樹種を選ぶ事になりますが、同じ樹種だけでは単調になりがちです。そこで、低木や地被植物を中木の前に植え、部分的に植栽の幅を厚くするなどしてリズムを付けましょう。列植でも、樹高に差をつけるとラフな感じに仕上がります。
主木の常緑樹と合わせて落葉樹を植えると、緑にバリエーションが生まれます。たとえば、常緑樹のキンモクセイを主木として選んだ場合、落葉樹のムクゲも一緒に配植することでスクリーンの表情にアクセントが生まれます。
棹高(かんこう)が2〜3mくらいの細身のヤダケやクロチクなどを利用すると、スクリーンでありながらも外部と内部を完全に遮断しない、いわば半透明な仕切りのような使い方が出来ます。
緑を防火壁に利用する
樹木で作る防火壁は、アラカシ、シラカシ、ツバキ、スダジイ、サンゴジュのような、葉が肉厚の常緑広葉樹か、ナギやカイズカイブキなど葉の付き方が密な常緑針葉樹が適しています。
火事は乾燥する冬に起こりやすいため、冬に葉を落とす落葉樹は防火壁には向きません。ただし、落葉樹にはイチョウやユリノキなど防火樹には向かなくても火に強いものもあります。近隣からの延焼には、火の粉によるものが多いと言われています。これを防ぐには、樹高が6mくらいにまで成長する木を植えましょう。
火の粉が樹木の横からすり抜けないよう、樹木の間隔は0.5〜1mくらいに蜜に植えます。また、隣家が家事になった場合、1階部分の燃焼による輻射熱が炎症の原因になる場合があります。これらを防ぐためには、高木の足元にサンゴジュやゲッケイジュなどの火に強い常緑樹を植えるようにしましょう。
病・虫害に負けないお庭
樹木が健全に生育するには、日照、水分、土壌、温度、通風の5つの条件が整っている必要があります。これらのバランスが崩れると、樹木は病・虫害を被りやすくなります。敷地に余裕が無い場合、全ての条件を満たす場所の確保は難しいでしょう。
そこで、最低限次の点に注意して配植や樹種選択をすることで、病・虫害に侵される確率を下げられます。
樹種は、アラカシやスダジイなど、病・虫害に強いものを選びましょう。改良新種や外国種は病・虫害を被りやすいので、生育環境が厳しい場所では植栽を避けて方が無難です。
配植は、なるべく密植させないよう心がけましょう。密植すると成長に欠かせないわずかな栄養資源を複数の樹木で取り合い、樹木の抵抗力が落ちて病・虫害に侵されやすくなります。樹種にもよりますが、隣り合う樹木の幹の間は高木2m以上、中木1m以上、低木0.5m以上は取るように心がけましょう。
排ガスに強いお庭
交通量の多い道路や工場の近くでは、車の排ガスに含まれる二酸化硫黄や煤煙により、樹木が枯れてしまうことがあります。コケ類のように小型の植物は空気の汚れに敏感ですが、樹木の場合、大気汚染がひどくても徐々に枯れていくため影響がわかりづらく、気がつけば庭木が全部枯れていた、ということにもなり兼ねません。
排ガスの影響が出やすい場所では、サザンカやヒサカキなど排ガスに強い樹木を道路に面した場所に多く配植し、緑の壁を作りましょう。低木から高木までまんべんなく植栽し、排ガスの流入を最小限に食い止めます。
その他の庭木もなるべく排ガスに強い樹木を選びましょう。(イチョウ、ウバメガシ、エンジュ、キョウチクトウ、ヤマモモなど)排ガスに強い樹種は常緑樹に多くあります。落葉樹では、オオシマザクラが比較的排ガスに強い傾向にあります。
樹木で作る防音壁のコツ
樹木で音を遮るには、緑地の厚さが相当必要です。個人住宅規模では敷地を確保するのは難しいでしょう。ですが、多少薄くても音が聞こえる方向に樹木で壁を作ることで、実際の効果以上に精神的な負担が軽くなったという話もよく聞かれます。
樹木が音を弱めるのは、葉の部分が音を反射させるからだと考えられています。葉が厚く大きい樹種ほどその効果が期待できます。道路や街の騒音は1年を通して続くため、樹木で作る防音壁はタイサンボクやタブノキなどの葉が大きめな常緑樹が基本となります。
配植は中高木を中心にし、その足元を常緑の低木・中木で埋めるような構成にします。低木・中木は、建物側だけでなく道路側にも植え、木の間から音が抜けないよう密に植えます。緑地は、敷地条件が許せば幅2m以上は取るように心がけましょう。
音が高所に抜けるため樹木の防音壁は、地面から高い位置にあるほど心理的な効果が上がると考えられています。樹木の壁の高さは5mは欲しい所です。
手間いらずのお庭の作り方
剪定や施肥、病・虫害対策などにできるだけ手間をかけたくないという方は多くいらっしゃいます。管理があまり必要でないお庭の作り方は、そんな方にうってつけのテクニックです。
手間いらずのお庭の基本は、「成長が遅い」「肥料を必要としない」「病・虫害を被りにくい」の3条件を満たす樹木を選ぶことです。日陰〜半日陰を好む常緑樹に多く、ヤマモモ(雄)やカラタネオガタマなど、花や実が目立ち過ぎない樹種を選ぶと虫もつきにくいので、病・虫害の対策にあまり手間はかかりません。
ただし、常緑樹中心にお庭を作ると、葉色が濃いため全体的に暗い印象になります。その場合、グミギルドエッジやフイリヤブランなどの斑入り種を混ぜあわせて植えましょう。落葉樹のなかでも、ヤマボウシは明るい葉の色で暗い印象を和らげてくれます。