
ただし、花は咲いて散るというサイクルの中で過程を楽しむ魅力の1つです。花期の長いものだけで組み合わせて植樹しても、花の価値や魅力は半減してしまうでしょう。花期が長いものばかりを植えるのではなく、多くても全体の半分くらいまでに抑えるとバランスの取れたお庭になります。
目立つ花のあるお庭
花を目立たせる上で重要なのは、花木とその背後にあるものとの色の関係性です。花の背後にある樹木や壁がどのような色をしているかで、同じ花でも見える印象は変わってきます。
例えば、ハナミズキやソメイヨシノ、ユキヤナギのように花が咲いた後に新葉が出る樹木は、背後に常緑樹を植えるか、壁や塀など地の色になるものがないと目立ちません。このような場合、壁や塀の色は花色とのコントラストが強いほど花はよく目立ちます。
花がピンク色や赤色、黄色など色味が濃い場合、コンクリートの壁などくすんだ色が背後にあるとよく映えます。ボタンクサギやムクゲ、ツバキは白っぽい壁が似合うでしょう。逆に白い花の場合、白色やコンクリート色ではコントラストが低く地味な印象になります。
一方、ツバキのように常緑で目立つ花を付けるものや、ヤマボウシのように葉が出た後に花を付けるものは、花と葉のコントラストだけではなく葉の大きさのバランスを考えて周辺や背景を作ることが重要になります。
大きな花をつける樹種は葉もまた大きいと考えていいでしょう。花と葉の色のコントラストだけで樹木を選ぶと、花が散った後で葉の大きさのバランスが悪いお庭になってしまう恐れがあるので注意しましょう。
花の選択や配置以前に、その花が綺麗に咲く環境に植えられているかは重要な前提条件です。花が綺麗に咲く環境とは、日照と土壌がその植物に適している状態にあることです。殆どの花木が日当たりの良い場所を好むため、植える場所が日照を十分に確保できるかを事前に確認しましょう。
樹木は花が咲く時期に特に水を必要とするため、土壌は乾燥させないように適度の水やりをしましょう。殆どの花木は肥料をあまり必要としません。完熟腐葉土を飽きに表土に混ぜるだけで十分でしょう。
花の香が楽しめるお庭
花の香を楽しめるお庭は、花に近づきやすく花が手に触れやすい配置にしましょう。玄関脇やアプローチ付近に配置すると、人が移動した時に香るので効果的です。一方、いくら香りが良くても寝室など人がじっとしているようなところは、いつも香りがすると鬱陶しくなるので避けましょう。
高木では秋のキンモクセイ、低木では春のジンチョウゲがよく使われる樹木です。ただし、この2種は香りがとても強いため、沢山植えると嫌がられることもあります。お庭の大きさにもよりますが、5平方メートルにつき1本程度に抑えるようにしましょう。
高木のギンモクセイやウスギモクセイは、キンモクセイに比べていくらか香りが穏やかです。コブシやモクレン、タイサンボクなどのマグノリア系(芳香木)の樹木や、低木のバラの仲間もいい香りがするものが多いです。
低木では、ヒイラギがキンモクセイに似た香りの白い花を付けます。生け垣に使われるヒイラギモクセイも似た香りの花が咲きます。この他、低木のアベリアやブッドレアは、蜜の香りが楽しめます。北海道の春に欠かせない花木であるライラックも、良い香りの花を咲かせます。ただ花期が短く暑さに弱いため、夏に暑い地域では虫がつきやすいなどの欠点もあります。
春に花が楽しめるお庭
緑が基調となる植栽デザインでは、花は色彩上のアクセントとなる重要な要素です。春は、多くの樹木が花を咲かせる季節です。春になり、お庭に花が一斉に咲く様子はとても美しいものです。季節ごとに咲く花が異なるため、季節に応じて花を上手く取り込みながらお庭づくりをしていきましょう。
お庭を鑑賞する者としては、出来るだけ長く花を愛でていたいと願うものです。そこで、春に花が咲く樹木の種類が多いことを活用し、3月から5月にかけて、次々と花が咲くように樹種を選ぶことがお庭づくりのポイントになります。
ただし、同じ色の花が続いて咲いても、目立った変化が見られません。同じ花の色は続けて咲かないように異なった色の花の種類を意識的に選びましょう。主な春の花の色と花期には、赤色系にはキリシマツツジ(4月中旬)、紫色系にはフジウツギ(4月上旬)、黄色系にはレンギョウ(3月下旬)、白色系にはコブシ(3月下旬)などがあります。
●3月終わり頃から咲く花
・中高木
ギンヨウアカシア、コブシ、サンシュユ、ソメイヨシノ、マンサク、ヤマザクラ
・低木、地被植物
アセビ、クサボケ、ジンチョウゲ、ヒュウガミズキ、ボケ、ミツマタ、ユキヤナギ、レンギョウ
●4月頃から咲く花
・中高木
ザイフリボク、サトザクラ、ジューンベリー、ハナカイドウ、ハナズオウ、ハナミズキ、ライラック(東京ほか関東)
・低木、地被植物
オオムラサキツツジ、キリシマツツジ、クルメツツジ、コデマリ、シャクナゲ、シャリンバイ、ドウダンツツジ、フジウツギ、ヤマブキ
●5月頃から咲く花
・中高木
エゴノキ、キングサリ、タニウツギ、ヤマボウシ、ヤブデマリ、ライラック(北海道)
・低木、地被植物
ウツギ、エニシダ、オオデマリ、カルミア、サツキツツジ、フジ
夏に花が楽しめるお庭
夏の花木は日当たりの良い場所を好みます。特に、サルスベリやフヨウ、マキバブラシノキなど、夏に花を咲かせるものはもともと暑い地方に自生する樹木が多く、そのため南側や日当たりの良い場所でも、さらに樹木全体が日差しを浴びられるような場所の方がより適しています。
これらの樹木はたとえ日差しがあっても、北風などの冷たい風を嫌うため、冬に寒風が通り抜けるような場所に植えるのはNGです。屋上庭園は、フェンスや壁などの緩衝材で風を防ぐ事ができれば日差しを樹木全体でふんだんに受けれられるため、夏の花を楽しむ空間に適しています。
夏に花が咲くものは、先に述べた花期の長い樹木とだいたい同じなので、それらを用いて構成することになります。ただし、いくら花期が長くても一つ一つの花の寿命を考えると、1〜2日で散るものも多く、花殻や花びらはほぼ毎日落ちることになります。
落ちた花びらなどは、そのままにしておくと地面にたまった雨水などで腐り、病害や虫害を招きやすい環境になります。特に梅雨時から夏場は病・虫害の発生しやすい時期なので、夏の花が咲く樹木を植える場所は他の季節の花以上に花殻や花びらが清掃しやすいように配置しましょう。
●夏の代表的な樹種
・中高木
キョウチクトウ、サルスベリ、シマサルスベリ、ナツツバキ、ヒメシャラ、ブッドレア、マキバブラシノキ、ムクゲ、ヤブデマリ、ヤマボウシ、リョウブ
・低木、地被植物
アジサイ、イッサイサルスベリ、ギンバイカ、ノウゼンカズラ、ビヨウヤナギ、フヨウ、シモツケ
秋に花が楽しめるお庭
秋に咲く花は限られていますが、紅葉の色彩と合わせて効果的に使用することで、植栽デザインがより魅力的なものになります。
秋に花を付ける代表的な樹種は、キンモクセイやギンモクセイ、ウスギモクセイなどです。冬の訪れを告げるサザンカは、花の色が白から紅まであり、また花びらの付き方も一重から八重まであるなど種類が豊富なため、和洋どちらのお庭でもデザインを邪魔すること無く取り入れられます。
秋の花が咲く低木、地被植物には、チャやハギ類、そして暖地の海岸に見られるツワブキがあります。ツワブキやチャは日陰でも耐えられるので、これらを用いて秋に日陰の空間が彩り豊かになるのも面白いデザインと言えます。
●秋の代表的な樹種
・中高木
ウスギモクセイ、キンモクセイ、ギンモクセイ、サザンカ
・低木、地被植物
アオキ、チャ、ツワブキ、ハギ類
・紅、黄葉が楽しめる樹種
ドウダンツツジ、ニシキギ、ヒュウガミズキ
冬に花が楽しめるお庭
冬に花が咲く代表的な樹種は、日本人が古くから庭木として慣れ親しんできたツバキ類でしょう。サザンカと同じ仲間で、早いもので12月から、遅いものなら5月頃まで花が楽しめます。
ツバキ類は、庭の和洋を問わず冬の主役になれる樹木です。この他には、12月頃に花が咲くロウバイ、1月頃に白い花を付けるビワや2月に咲くウメ等が冬のお庭を彩る花木になります。
低木ではサザンカに似たカンツバキを樹木の足元に、またはツツジと一緒に刈り込んで植えるといいでしょう。立ち木タイプでは、高さが1.5mくらいになるタチカンツバキがあります。ウメに似た花を付けるボケは1月末から2月にかけて花を咲かせます。
●冬の代表的な樹木
・中高木
ウメ、ツバキ類、ビワ、ホソバヒイラギナンテン、ロウバイ
・低木、地被植物
カンツバキ、クリスマスローズ、ジャノメエリカ、ツジンチョウゲ
赤い花が映えるお庭
庭木に使う赤い花には、ツツジやツバキ、四季咲きのバラがあります。マキバブラシノキも特徴的な赤い花が咲きます。赤い花を取り入れる場合、背景を緑にするとよく映えますが、特にモチノキやモッコクなどの暗緑色の葉を植えるとより効果的です。
赤い花は目立つため、お庭の印象を大きく左右します。特に樹木全体に赤い花が咲くハイビスカスやブーゲンビリア、ホウオウボクなど熱帯原産の花は咲くだけで熱帯風の印象になるので上手に組み込みましょう。
紫・青の花が映えるお庭
紫の花は春の終わりから初冬まで花が咲くものが多く、比較的長い期間楽しめます。庭木で紫の花といえば、中高木では昔からシモクレンがよく使われます。セイヨウシャクナゲのなかにも美しい紫の花を咲かせるものがあります。
洋風のお庭に似合うブッドレアや和風のお庭でも使えるシコンノボタンなどが花付きはいいでしょう。低木ではツツジ類に紫の花を咲かせるものが多くあります。地被植物では、アジュガやアガパンサス、アカンサス、シランが春に、ヤブランやフイリヤブランは夏に紫の花を咲かせます。
これらは管理が比較的簡単です。紫の花は一見地味に感じられますが、葉の緑と調和し、しっとりとして存在感のある雰囲気を作り出します。また、ラベンダーなどを使って1種類で紫一色に仕上げても映えるお庭になります。
一方の青い花ですが、日本でよく使われる庭木に青い花を付けるものは殆どありません。青い花が付く樹木を植えたい場合は、薄い青紫系統の花が咲くものから選ぶことになります。
薄い青紫色の花で代表的なものはアジサイです。青い花で交際されたお庭は落ち着いた印象になります。配置の際には、白い花を混ぜたり反対色の黄色い花を合わせたりすると、青い花がより浮き上がって見えて素敵に感じられます。
ピンクの花が映えるお庭
ピンクの花は、サクラ類などの薄い色からツバキ類などの濃い色まで色の幅が広いです。花色が薄い樹種を取り入れる場合、背景には濃緑色の樹木や黒塀などのしっかりした色のものを持ってきましょう。
ツバキ類のように濃いピンク色の花も、ユキヤナギフジノピンキーのように白い花を改良して作られた淡いピンク色の花も、周りに白い花を配してその中に混ざって少し咲くように配色すると白とピンクの両方を際だたせることが出来ます。
黄・橙の花が映えるお庭
イングリッシュガーデンの影響で、黄色い花も植栽のアクセントとして使われています。黄色い花の中高木では、ミモザの愛称で親しまれているギンヨウアカシアやフサアカシア、ツルになるキングサリは発色がよく、花が咲くと光が差しているかのように明るい感じのお庭になります。
マグノリアキンジュは、黄色の花が咲くモクレンの仲間で、近年よく使われます。サクラ類では、江戸時代から親しまれてきたウコン(サトザクラの一種)があります。低木では、ヤマブキやレンギョウが挙げられます。
橙の花は、レンゲツツジやツル植物のノウゼンカズラ、球根植物のモントブレチア、ヘメロカリスがあります。
白い花が映えるお庭
大きな白い花の代表は、春を感じさせるハクモクレンやコブシ、サクラの開花後に咲くハナミズキがあります。また、5月に咲く落葉樹のハンカチツリーや常緑樹のタイサンボクもとても目立つ花です。低木では、ユキヤナギが代表的です。ヤマブキの別種のシロヤマブキや、ウメに似た花が咲くシャリンバイがあります。
花の色と代表的な庭木
●赤
・中高木
アメリカデイゴ、ウメ、セイヨウシャクナゲ、タチカンツバキ、デイゴ、ハイビスカス、ブーゲンビリア、マキバブラシノキ、ホウオウボク、ヤブツバキ
・低木、地被植物
カンツバキ、クサボケ、ゼラニウム、チェリーセージ、ツツジ類、バラ類、モミジアオイ
●紫・青
・中高木
シモクレン、シコンノボタン、セイヨウシャクナゲ(大輪種の貴婦人など)、セイヨウニンジンボク、ハナズオウ、ブッドレア、ボタンクサギ、ムクゲ、ライラック
・低木、地被植物
アガパンサス、アカンサス、アジサイ、アジュガ、ガクアジサイ、ギボウシ、ツツジ類、バラ類、ビンカミノール、フイリヤブラン、フジ、フジモドキ、ヤブラン、ラベンダー、ルリマツリ、ローズマリー
●ピンク
・中高木
サクラ類(エドヒガシ、カンザン、シダレザクラ、ソメイヨシノ、フゲンゾウ)、サラサモクレン、セイヨウシャクナゲ、ツバキ類(オトメツバキ、ワビスケ)、ハナカイドウ、ベニバナエゴノキ、ベニバナトチノキ、ベニバナハナミズキ、ムクゲ、モモ
・低木、地被植物
シモツケ、ジャノメエリカ、ジンチョウゲ、ツツジ類、ニワウメ、ニワザクラ、バラ類、ヒメツルソバ、ホザキシモツケ、マツバギク
●黄・橙
・中高木
ギンヨウアカシア、サクラ類(ウコン)、サンシュユ、フサアカシア、マグノリアキンジュ、マグノリアエリザベス、モクゲンジ、ロウバイ
・低木、地被植物
ウンナンオウバイ、エニシダ、キンシバイ、ツキヌキニンドウ、ツワブキ、ノウゼンカズラ、ヒペリカム・カリシナム、ビヨウヤナギ、ヘメロカリス、メギ、モッコウバラ、モントブレチア、ヤマブキ、レンギョウ、レンゲツツジ
●白
・中高木
アンズ、ウメ、エゴノキ、オオシマザクラ、オトコヨウゾメ、コブシ、サザンカ、タイサンボク、トチノキ、ナシ、ナナカマド、ハイノキ、ハクウンボク、ハナモクレン、ハナミズキ、ハンカチツリー、ホオノキ
・低木、地被植物
アセビ、オオデマリ、カシワバアジサイ、コデマリ、シジミバナ、シロヤマブキ、シャリンバイ、ツツジ類、ノシラン、ハクチョウゲ、バラ類、ピラカンサ、ユキヤナギ