狭小地の一軒家から広大な豪邸まで、様々なジャンルでエンドユーザーの気持ちを反映させたエクステリアデザインを手がけているガーデンプランナーの高橋輝匡さん。今回リフォーム工事を行った物件は、東京の下町で長く営業を続けている老舗のイタリア料理店のエクステリアです。
ー今回のリフォーム工事はどのようなものでしたか?
高橋:施主様の敷地の前にはもともと大きなビルが建っていたんですが、それがなくなり土地がぽっかり空いたんです。そのお陰で今までは通りからはほぼお店が見えない状態からしっかり見えるようになったのですが、ビルの跡地はただの空き地で、このままでは殺風景すぎるということでエクステリアのリフォーム工事を承りました。
ーでは、メインの工事は床面のリフォーム工事だったんですね。
高橋:はい。そのビルの跡地は施主様が購入されたので、気兼ねなく自由なデザインが描けました。ただ、お店の全面の空き地の他にも、直すべきところが沢山見受けられたので、床面の一新とともにお庭を一から作り直すつもりでご提案しました。
ーなるほど。では今回リフォームしたところを順にお聞かせ下さい。工事前の写真と比べると、まず敷地の右側のウッドフェンスが目につきますね。
高橋:ええ、お隣は築何十年と言ったような雰囲気の2階建てのアパートがあります。どんなに敷地内を左官の壁や植栽で彩っても、隣地の景観がミスマッチだと残念ですからね。そこでまず、敷地境界線に沿って2m弱の高めのウッドフェンスでしっかりとカバーしました。引きで見るとまだアパートは目立ちますが、実際にその場で立って見てみると気にならなくなりましたね。
ー確かに、フェンスがあることでアパートが醸し出す生活感を遮断出来ている感じがしますね。一階に住んでいる方もドアを開けた際にお店のお客さんと目が合う、なんてこともなさそうですね。
高橋:そうですね(笑)ウッドフェンスで空間を仕切ることで、お互いにとって大きなメリットが生まれたと思います。せっかくのウッドフェンスなので、お店の名前も入れました。夜でも目立つようにライトアップも施したので、かなり印象が変わりましたね。
ー空き地だった床はコンクリートを中心にデザインされたんですね。
高橋:はい。今回はお店なので、構造物をたくさん作ると団体のお客様が来店されたときなど不都合が生じるので、前庭部分はスッキリとしたデザインに抑えました。動線を意識させるようにピンコロ石でアプローチをデザインしたくらいですね。
ーなるほど、確かに人の出入りや集まりがスムーズになるようにシンプルな方がお店の場合はいいですよね。
高橋:施工後にご挨拶に言った時はちょうどお昼時で、その時はママ友の集まりだったのか自転車がたくさん停まってましたね。デザインがぴったりニーズにハマッたのを目の当たりにした思いでした(笑)
ーまさに狙い通りでしたね!ピンコロ石で縁取られたアプローチを進むと、白い壁と緑が素敵な空間がお店の前に広がっていますね。
高橋:塗り壁の奥からは床面をコンクリートから方形の石材に素材を変えて、雰囲気をヨーロピアンなテイストに変えています。お店自体はあえて壁や植栽で少し隠して、どんな感じのお店なんだろうと期待感を持たせるようにデザインしました。道を直線ではなくクランクさせて作ったのもそのアイディアからです。それにアプローチを曲げて距離を伸ばした方が奥行き感も出ますしね。
ーなるほど。この壁にもピッコロカスターニャの文字が書かれていますね。
高橋:ウッドフェンスには茶色のフェンスに白い文字で書いたので、白い壁には反対に茶色い文字で店名を書きました。この辺りの対比もちょっとしたこだわりです。壁の周囲に植えた高木や下草も、どの季節にも花が咲いているように様々な植栽を植えました。
ー選んだ植栽にポイントなどはありますか?
高橋:高木は目立つので基本的にオリーブやシマトネリコなどの常緑樹をメインに選びました。四季の移ろいを感じさせるためにも、お客様のウェイティングスペースにはイロハモミジを植えています。日照条件や風通しがあまり良くない敷地条件なので、下草は暑さに強く日陰でも育つヒューケラやヤブラン、カレックスなどをチョイスしています。お店が忙しくても大丈夫なように、手間の掛からない植物を中心にデザインしました。
ー確かに、敷地の条件に左右されないような草木なら世話も大変ではなさそうですね。先ほどおっしゃられたウェイティングスペースですが、こちらも見応えがありますね。
高橋:こちらは順番待ちのお客様や食後の一服を楽しむお客様のためのスペースとして、開放感を維持しながら外の空間と一線を画すようにデザインしました。白を基調としたスペースに植栽を交えてあるので、とてもリラックスできると思いますよ。
ー隣には高いビルがありますが、緑が目を引くので圧迫感などは感じないでしょうね。確かにゆったりとした気分で過ごせそうですね。
高橋:ビル側には白いウッド調のアルミフェンスを造作しました。色味は塗り壁と同じにしているので悪目立ちせず、さり気なく視界に入るビルを隠してくれています。全てを隠すことは出来ませんが、座った状態の視線の高さを意識してフェンスの高さを決めました。
ーなるほど、人の目線の先をイメージしてデザインされたんですね。最後に、夜の写真は本当に素敵ですね。ライトの配備や選び方にポイントはありましたか?
高橋:駅に近い土地ですが、通りは夜になるとあまり灯りがありませんでした。ですので、ライトを結構多めに取り付けて、一際目立つようにデザインしました。アプローチに配置したポールライトは、小さな下草に合わせて背の低い物をいくつも点在させました。光に照らされた植栽はウッドフェンスや塗り壁に陰を伸ばします。これにより、夜でも植栽を意識できる空間になっていると思います。
ー全て暖色系の柔らかい灯りというのも素敵な雰囲気を出していますね。同じお店でも、昼と夜とでは受ける印象は違ってきそうですね。
高橋:ライティングによって、お店の雰囲気はかなり変わったと思います。施主様からは、夜お店を出たお客様は必ず振り返ってお店を眺めるそうですよ。中には写真を撮って帰らえる方もいらっしゃるそうです。
ー確かに、撮りたくなっちゃうのも分かります(笑)こちらのデザインで賞もいただいたんですよね?
高橋:はい、タカショーさんのエクステリアのコンテストのライティング部門で、入賞をいただきました。これは偏にこのデザインを採用してくださった施主様のおかげですね。
ー最後に、今回のお店のエクステリアの工事ですが、改めて振り返ってみていかがでしたか?
高橋:立地条件自体も良く長年愛されてきたお店なので、今回のリフォーム工事を機に常連さんだけでなくご新規のお客さんまでたくさん来てくれるようになったようで、デザイナーとしても嬉しく思っています。これからも施主様ご家族だけではなくて、通りかかって目にする人をも幸せな気持ちにさせるようなデザインを生み出していけたらと思います。