目隠しできる木といえば、常緑、常緑といえば暗い、和風…といったイメージを持つ方も多いと思いますが、近年ではオーストラリアをはじめ、南米、ヨーロッパなど様々な地域から日本国内でも育つ洗練されたシルエットの常緑樹が続々と栽培され始めています。
そのバラエティは驚くほど豊富。もちろん、日本の樹木も品種改良が盛んにおこなわれており、美しさや強さでも劣っていません。今からご自宅のお庭づくりを検討する方はもちろん、少し目隠しに植えた樹木に飽きてしまった、という方はぜひ、耐寒性や耐暑性、耐陰性などを加味した上で、ご自宅の環境に合った新しい感覚の目隠し常緑樹を探してみて下さいね。
常緑だから葉が落ちない?常緑樹についてのあるある!勘違い
常緑樹は葉が落ちない!と思い込んでいる方がいますが、それは大きな間違い。常緑樹でも葉の入れ替わりのサイクルがきちんと存在します。1年に1回という木もあれば、数年葉を付けたままで新しい葉と入れ替わる木もあります。不要になった葉は落としていくので、落葉樹のように秋に一度に落ちるということがありません。そのタイミングとしては、雨や風の後に季節問わずパラパラと葉を落とします。日本の常緑樹の多くは1 年以上の場合が多いようですが、熱帯雨林や温帯などの木などはその限りではありません。
そもそも、葉の役割は光合成を行うほかに、根から吸い上げた水分を外に蒸散させる役割があります。落葉樹の場合は寒さの厳しい時期、根からの水分吸収が十分できないため、葉から貴重な水分を外に出さないよう、葉を落とします。一方で常緑樹が育ってきた環境は多くが温かい地域。冬の間にも根や葉は活動し続けて、活動を継続しています。
しかし特に寒さが厳しい冬が到来した年などは、その活動を止めざるを得ません。そのため、年によっては冬に葉を落とす、という常緑樹も。また葉をうまく落とせずに枯れてしまう…という残念な事態も起こってしまうことも。つまり、常緑樹だから手間がかからない、ということはなく、むしろ寒さに気を付けながら、年中落ち葉を掃除する手間も生じる、ぐらいに考えておいて間違いはないでしょう。
常緑樹の多くが温かい地域の木であること、寒さには抵抗力が低いということを記憶して、東北から北の地域の場合は0 度以上で栽培できる樹木を基準に選んでみて下さい。また関東以西でも、0 度を下回る厳寒期には幹巻きを行ったり、寒冷紗を掛ける、降った雪をはなるべく早めに下してあげるなど、早め早めの処置を行うことを心がけましょう。
(★風雨でよく葉が落ちる常緑樹:シマトネリコ、ギンマサキ、ゲッケイジュなど)
これを知れば敵なし!常緑によくある病害虫
葉を一斉に落とす、というタイミングがないのが常緑樹。そのため、葉が茂りすぎて混み合っていたりすると、梅雨時から夏にかけては菌やウイルスの病気にもかかりやすくなり、重なっている葉には伝染しやすくなります。またカイガラムシのような木の枝や葉を吸汁する害虫の場合も、冬の間、葉が付いたままの常緑樹の場合は葉が落ちて一掃されることもなく付いたままになります。
冬季はカイガラムシにとっては休眠期になりますが、彼らの排泄物が餌になって葉を真っ黒に染めてしまうスス病菌なども葉に付いたままに。スス病が発生し始めると、葉は光合成を妨げられてしまいます。抗菌剤など薬剤もありますが、症状自体は手でこすっても、ジェット水流で流してもなかなか取り除けないため、美観も損ない樹勢も衰えます。とにかく根源であるカイガラムシを排除しないと完全に取り除くのが難しい病気です。葉や枝の異変には常に気を付けていましょう!
(カイガラムシが付きやすい木:柑橘系全般、バラ科全般、モチ科など)
また、柑橘系はほぼ常緑なので、暖地では目隠しに植える方もいますが、あまり密集させるのはおすすめできません。やはりカビやカイガラムシなどの病害虫を誘ってしまうに加え、柑橘系といえばアゲハが産卵に来る木。春から夏にかけては常にアオムシに注意を払っていなければなりません。
そのほか、怖いのはよく生垣などに頻繁に使われるツバキやサザンカに付くチャクドガです。成虫や卵を覆う毒針毛と呼ばれる細かな毛は、触れただけでも赤い発疹を伴う皮膚炎に進行します。
植栽を行えばある程度、ウドンコやアブラムシなどが付くのは覚悟が必要ですが、いくら春先や冬場、適切な消毒をしていても、やはり厄介な害虫をおびき寄せてしまう木は、目隠し目的であれば選択しない方が無難でしょう。
目隠しのために植える、ということはある程度は高さや密度も必要になってきます。一年中消毒ばかりしていたのでは気も滅入ってしまうし何より、大変です。主目的をよく考慮して、手間のかかりにくい木を選びましょう。
ここまでは目隠しとなる常緑樹の特性について、基本的な知識をお伝えしてきましたが…なんだか手間がかかりそう、うちには難しいかもしれない、と思ってしまったかもしれませんね。でも恐れることはありません。植える場所の気候や環境をよく配慮して、適した樹木を選んであげることと、季節的なお手入れをきちんと行っていけば、すくすく育ってくれるはずです。
ぜひご自宅の目隠ししたい環境をよく観察して探してみて下さいね。
洋風の住宅におすすめシルバーリーフ常緑樹
(オリーブ、パールアカシア、ブルーブッシュ、フェイジョア)
洋風のお宅に似合う常緑樹の中でも、より洗練された雰囲気を演出してくれる樹種といえば、やはりシルバーリーフの目隠し。風になびいた時、葉が爽やかに光る常緑樹はやはり目を引きますね。その代表選手といえば、オリーブやユーカリなどのブルーグリーン&シルバーの組み合わせ。オリーブは庭木としても首都圏や関東より西の地方では一般的になりつつありますね。
オリーブは環境さえ合えば10m近くになることもありますが、関東周辺では気温が足りず、そこまでは生長しないことも庭木として定番人気を誇るところです。フサフサとした細長い葉が茂れば、さりげない目隠しには最適です。
ただし、オリーブには幹に小さな穴を無数あけて食害するオリーブアナアキゾウムシやコガネムシの幼虫など根や幹を食害する害虫が付きやすいので、葉の付き方や樹勢の勢いをよく観察しましょう。ゾウムシは小さく黒いゾウのようなノズルが特徴的な虫です。
コガネムシの場合は、地面の中にいる白い幼虫です。存在を発見したら取り除いたり、専用の殺虫剤などで退治するなど早め早めの対応を行えば、木は元気に回復してくれます。
~オリーブ(モクセイ科)~
開花:5~6月樹高:2~4m 環境:日なた耐寒性:-3℃前後
病害虫:オリーブアナアキゾウムシ、コガネムシ、カミキリムシなど
先述したユーカリの場合は、かなり生長が早くグングンと縦に横に枝葉を広げて剪定も追いつかず「最初の可愛いイメージとちょっと違う…」と手を焼いてしまうことも。そこでここではユーカリに少し似た雰囲気でも、割とスマートに洗練度を高められるパールアカシアやアカシアブルーブッシュをご紹介します。
この二つはその名の通り、ミモザと同じアカシア属。原産地はオーストラリアで耐寒性はありますが、関東周辺でも植える場合は春頃から庭植えして少しずつ慣らしていくのが理想です。
ブルーブッシュは枝に銀白色の繊細な葉を密集させるとてもモダンな雰囲気。一本あるだけで個性的な雰囲気が目を引きます。ただ、まだ流通し始めて日が浅いため、樹高が高くないものしか入手できないことも。最初から目隠しにはなりにくいですが、生長は早いので庭植えして数年で存在感たっぷりの常緑樹となること間違いなしです。
~アカシアブルーブッシュ(マメ科)~開花:3~4月 樹高:5m前後環境:日なた
病害虫:特になし
パールアカシアは、葉が少し丸みを帯びていて、ビロードのような葉がとてもオシャレです。樹形はやはりブッシュ状で葉が密集しますが、ブルーブッシュほど細やかな雰囲気ではなく、むしろ「可愛らしい」という形容詞が似合うシルバーリーフ。適応する場所はブルーブッシュとあまり変わらないので、しっかりおしゃれに目隠しできます。
いずれもミモザはマメ科の樹木のため自らチッ素を作り出せるという特徴があり、植え付け後は肥料は特に必要ありません。またきちんと根付けば、ほとんど水やりも気にしなくてもOK。
ただ気を付けたいのは、移植が難しい点と強風に倒れ込みやすい、という点です。ミモザの類はかなり生長が早いので、やはり定植位置を決めたらしっかり支柱をして育てましょう。
~パールアカシア(マメ科)~ 樹高:5m前後 環境:日なた 病害虫:特になし
シルバーリーフといえば、ピンクの花が南国ムード溢れる、フェイジョアもおすすめです。卵型の葉は裏側が銀白色に光り、春にはハイビスカスに似た花、そして秋頃にはトロピカルフルーツとしても流通する甘い実を付けてくれます。ウルグアイやパラグアイ、ブラジルなど南米が原産のため、寒さには少し弱いものの、-5℃前後まで耐えられます。
果実は日本ではほとんど流通していませんが、「パイナップルグァバ」とも呼ばれるだけあり、薄皮をむくだけで気軽に食べることができます。実はゼリー状の部分が甘くて美味しいので、目隠しというよりは、果樹として栽培する人も多いのがこの木の人気の秘密です。
この実を付けるためには、自家不結実性のため異品種の混植が必要になりますが、“クーリッジ”“アポロ”は比較的結実しやすく、“トライアンフ”“マンモス”などの品種は異品種が必要になります。
~フェイジョア(フトモモ科)~
開花:5月樹高:2m前後 環境:日なた 害虫:イセリアカイガラムシ、カミキリムシ等
病気:黒星病など
和モダンにも似合う細葉&尖った葉の常緑樹
(カリステモン、ブリスベン、メラレウカ)
ブルーグリーンやシルバーリーフもオシャレですが、ご自宅が和モダン風だったり、シンプルモダン風なテイストの場合は、もう少しグリーンがかった葉の目隠しが似合いそうです。
でもソヨゴやシマトネリコは、あまりにどこにでも見かけるし…他に何か無いかな?という変化球を求める方にオススメしたいのが、尖った葉が個性的なカリステモンや、やわらかな細い葉がインパクトのあるアカシアブリスベーン。ブリスベーンは、グリーン系の細い葉とやわらかな枝垂れた姿がミモザの中でも爽やかで、とても雰囲気のある樹形です。もちろん常緑なので、ほどよく目隠してしてくれます。
ミモザというと、激しく茂ったフサアカシアのような状態をイメージしてしまう人も多いのですが、茂り方も涼し気で生長速度も比較的ゆっくりです。
樹高も関東周辺では最高でも3~4m前後と扱いやすい大きさで、花の色は一般的なギンヨウアカシアと比べても、黄色が淡くやさしいイメージです。まだまだ出回り始めたばかりなので、入手できるのは樹高2m前後のものが多いですが、ゆっくり生長を楽しんでみるのも良いですね。
~アカシアブリスベーン(マメ科)~
開花:5月樹高:3m前後で推移環境:日なた病害虫:特になし
カリステモンは「ボトルツリー」「たわしの木」などとも呼ばれる赤い南国ムード溢れる花の付くフトモモ科の常緑小高木。葉は少しオリーブと似た形ですが、さらに尖ってツンツンした雰囲気はとても個性的。枝はブリスベンと同様少し枝垂れるので、風情もあります。流通としては意外と多く出回っており、2.5m以上でも入手できることも。すぐに高さのある目隠しが欲しい場所にはもってこいで、赤花が苦手な場合は白花もあります。
こちらはとても清涼感があるので、あまり個性的な感じには抵抗がある方にはオススメです。
白花の流通は赤よりは少ないため、樹高のあるものは手に入りにくい可能性もありますが、少し待てばしっかり目隠しの役割を果たしてくれます。
耐寒性も耐暑性にも優れ、病害虫にも強いので、その点でも手間のかかりにくい目隠し樹木としては優秀です。ただ、原産地はオーストラリアのため、あまりに強い寒さは苦手とします。-5℃を下回る場所と、水はけの悪い場所は適さないので、その点には配慮が必要です。
~カリステモン(フトモモ科)~開花:5月樹高:3m前後環境:日なた病害虫:特になし
金色系、白斑がおしゃれな明るい葉色の常緑樹
(斑入りマサキ、メラレウカ)
お庭が暗かったり周囲の壁色が暗い、という場合は黄色や白い斑の入った木で明るさを演出するのもオススメです。たとえば、白や黄色系では白い縁取りが入ったのギンマサキが一押しです。日本で以前から生垣などでも使われてきたマサキの園芸品種ですが、洋風の庭にとても馴染みが良く、暗くなりがちな常緑の庭を明るく印象付けます。
比較的日陰にも耐え、病害虫や刈込にも強く、他の落葉樹との相性も良いので、まさに目隠し向きです。しかもよく流通しているため、高さや葉張り(木の幅)を選びやすいのも利点。よく茂って高さも出てくると上からの目線も目隠ししてくれるので、盤石ともいえます!
気を付ける点といえば、やはりよく茂るために風通しが悪くなり白い斑点が葉を覆うウドンコ病などにはかかりやすくなります。症状が現れ始めたら、剪定を適宜行うなど通風を改善してあげましょう。
~ギンマサキ(ニシキギ科)~
開花:6月頃 樹高:3m前後 環境:日陰~日向 病害虫:ウドンコ病など
メラレウカは繊細な葉がふわりと周囲を明るく演出してくれるオーストラリア原産の常緑中高木。品種によっては0℃前後で、植栽適地は関東以西となりますが、ガーデンショップや園芸店などで2m弱のサイズは観葉植物のような状態でもよく出回っています。
日本では庭木としての歴史が浅くあまり知られていませんが、その葉はキャプテンクックがお茶として飲んだとされ、現地や国内の愛好家の間では“ティーツリー”という名でも親しまれています。
花や葉には甘く爽やかな香りがあるので、近くを通るだけでも癒されますし、最も一般的な“スノーインサマー”は4月頃に木を覆うように白い花が付き、とても爽やかな雰囲気です。
この茎や葉、オーストラリアの先住民アボリジニの間では、水蒸気蒸留され古くから傷の消毒やかゆみ止めなどとして日常的に使われてきた歴史があり、抗感染作用や抗菌作用があることで知られます。現代でもエッセンシャルオイルや化粧水など、様々な商品として広く出回っているほど。
つまり目隠しだけでなく、その効用を色々と活かすことのできるのがこのメラレウカなのです。
~メラレウカ(フトモモ科) ~
開花:6月頃樹高:3m前後環境:日陰~日向病害虫:ウドンコ病
品種は“アルテルニフォリア”“スノーインサマー”“ブラックティーツリー”などが入手しやすい。
常緑樹でも紅葉する木もある!季節感が味わえる常緑樹
目隠しに季節感を求めても仕方がない、とはよく思われがちですが、常緑樹にも寒さに当たると紅葉する樹種もあります。例えば先述したメラレウカの“ブラックティーツリー”は、冬場、葉先がレンガのような色に紅葉します。もちろん、あまりに寒い場合は葉を落としますが、気候によってはそのまま保つことも多く、寂しい冬の庭に彩を与えてくれます。
~寒さに当たると葉先がレンガのような色に染まっていくメラレウカ“ブラックティーツリー”~
また完全な常緑ではなく、半常緑のブルーベリーなども目隠しに使うこともあります。ブルーベリーは秋に真っ赤に紅葉し、品種によっては半分ほど葉が残ります。ブルーベリーは言わずとしれた、あの甘酸っぱい実の付く木ですが、実は花もかわいらしく、背も高くなり過ぎず関東周辺ではとても扱いやすいことでも知られます。植え付け後も痩せ地でも育つとあって手間もほとんどかかりません。
~ブルーベリー(ツツジ科)~
開花:4月頃 樹高:3m前後 環境:半日陰~日向 病害虫:特になし
耐寒性:ハイブッシュ系強い/ラビットアイ系弱い
写真半常緑の品種もあるのがブルーベリー。ラビットアイ系ミスティー、サザンハイブッシュ系シャープブルーなどが特に半常緑性がある。
秋には葉がワインレッドに紅葉するドドナエアのポップブッシュ“プルプレア”は、やはりオーストラリア原産の常緑低木。庭木として樹形も美しい卵型を保ち、ほとんど剪定の必要がなく、病害虫も気にしなくてもよいため、目隠しとしても優秀です。やや生長は早いですが、樹高は3m前後と納まりも良く、シンボルツリーにもできる存在感を保ちます。また耐寒性も強く、‐5℃前後までは耐えてくれます。
ただ気を付けたいのは乾燥にとても弱いこと。葉が薄いため、水分を保つのは苦手なようです。植え付けから半年ほどは水やりに気を付けましょう。
また、幹や枝が最初はヒョロヒョロと細いので、雪の重みや強風には耐えられず折れてしまうことも。支柱をきちんとしてもらい雪下ろしを早めに行うなどの対策は必ず行いましょう。
~ポップブッシュ(ムクロジ科)~
開花:4月頃(花よりはピンクのサヤが目立ちます) 樹高:3m前後環境:半日陰~日向病害
虫:特になし
いかがでしたか?今回は知っているようであまり知られていない常緑樹の特性をご紹介しつつ、目隠しできる常緑樹でも、ありきたりにならない、ちょっと珍しく洗練された印象の樹木をいくつかピックアップしてご紹介しました。
まだまだ日本では珍しい新しい品種などもあるので、ご自宅の環境に合いそうな樹種を検討してみて下さいね。